
はじめに ~ GSTC研修レポート ~
ホテル経営に「持続可能性」をどう組み込むか──2日間で見えた実践のヒント
2025年9月29日・30日の2日間、私は「GSTC研修」に参加しました。
今回の目的は、持続可能な観光の国際基準である「GSTCスタンダード」を体系的に理解し、今後のホテル・旅館の経営支援にどう活かせるかを考えることです。
この2日間は単なる勉強会ではありませんでした。
むしろ、「これからのホテルは、何をもって選ばれるのか」という本質的な問いに向き合う時間でした。
サステナビリティという言葉は広がっていますが、現場ではまだ
「コストがかかるもの」「環境活動の延長」
という認識にとどまっているケースも多いのが実情です。
しかし今回の研修を通じて見えてきたのは、
それが“経営の中核”に関わるテーマであるということでした。

地域の収益が地元に還元される買い物 (イメージ)
1. GSTCとは何か? 世界が注目する「観光の共通言語」
GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会:Global Sustainable Tourism Council)は、持続可能な旅行および観光のためのスタンダードを制定・管理する国際非営利団体です。
2007年に国連機関(UNEP、UNWTOなど)の支援を受けて設立され、現在では世界中の観光地・宿泊施設・旅行会社がこの基準を参照しています。
この団体が策定しているのが「GSTCスタンダード(基準)」です。
言い換えれば、ホテルや旅館が“環境・社会・地域・運営”の観点からどれだけ持続可能な運営を行っているかを示す、世界的な「ものさし」なのです。
2. GSTCスタンダードの4つの柱──それは「経営」の話である
GSTCスタンダードは、以下の4つの柱(Pillars)から構成されています。
- 持続可能性マネジメント(Sustainable Management)
経営方針・モニタリング・人材教育など、ホテル経営そのものにサステナビリティを組み込むための仕組み。 - 社会経済的利益(Socioeconomic Impacts)
地域雇用の促進、地元企業との取引、フェアな労働環境など、地域社会にどう貢献しているかを問う項目。 - 文化遺産の保全(Cultural Heritage)
地域の伝統や文化財への配慮、地元文化の発信、観光による破壊的影響の防止。 - 環境の保全(Environmental Impacts)
エネルギーや水の節約、廃棄物の削減、CO₂排出の抑制、生態系保全など、自然環境への配慮。
重要なのは、これらが単独ではなく相互に関係していることです。
どれか一つを強化するのではなく、バランスよく整えることが経営の質を高めることにつながります。
3. 研修で得た気づき──「環境対策」ではなく「経営戦略」
今回の研修で印象的だったのは、「サステナビリティ=エコ活動」ではないということ。
リネン交換を減らしたり、ペットボトルをやめたりといった取組みも大切ですが、それはあくまで一部です。
本質は「経営の中にどう組み込むか」ということ。
たとえば、
- 定期的に地域住民との対話の場を持つ
- 地元産の食材を積極的に仕入れる
- 社員教育に“持続可能な観光”の要素を組み込む
これらはすべて「GSTCの柱」に沿った実践です。
つまり、サステナビリティは環境活動の延長ではなく、「経営戦略の質を高める」ための考え方なのです。
4. 認証取得を「目的」にしない──まずは現状の可視化から
「認証取得はハードルが高い」と感じるかもしれません。実際、2025年10月時点で国内外を合わせて数千施設にのぼります。ただし日本国内の取得施設はまだ20数施設に留まっています。しかし、研修で海外の事例(ケニアのエコロッジやボツワナのキャンプなど)を学ぶ中で気づいたのは、「特別なことをする必要はない」ということです。
- 定期的に地域住民と対話の場を持っているか?
- スタッフの健康や働き方に配慮しているか?
- 廃棄ロスの削減に取り組んでいるか?
これらは多くの日本の宿が、既に「おもてなし」の一環として無意識に行っていることです。GSTCの基準をチェックリストとして活用し、「できていること」を言語化・可視化すること。それが、認証というゴールに向けた、最も現実的な第一歩となります。

5. GSTCの活動と今後の展開
GSTCは、基準策定だけでなく、研修プログラムや認証制度の普及、観光地・政府・企業との連携など、幅広い活動を行っています。
特に近年は、「Destination(観光地全体)」単位での評価・支援にも力を入れており、単なるホテル単体の取り組みを超えた、地域レベルでのサステナブルなアプローチが進んでいます。
研修では、海外の先進的な事例も紹介されました。
たとえばケニアのイル・ウングウェシ・ロッジでは、地域コミュニティ主体で運営される世界初のエコロッジとして、女性の雇用と生産活動の支援を重視。現地女性が制作したビーズアクセサリーや装飾品を館内で販売し、その収益を地域に還元しています。
また、ボツワナのチタベ・キャンプでは、地域住民の雇用促進とリーダー育成を推進。
地元出身者が総支配人として経営に参画し、若者にマネジメント機会を提供しています。
こうした取組みは、地域経済の活性化と観光客の体験価値を両立させるものであり、「サステナビリティは経営理念の延長線上にある」というGSTCの思想を象徴しています。
6.経営視点で見る──GSTC認証がもたらす実務的メリット
ここからは、今回の研修での学びを踏まえ、「GSTC認証が経営にどう役立つのか」を具体的に整理します。
日本のホテル・旅館におけるメリット
1. 人材・採用
- 環境・地域・人にやさしい取り組みに共感する人材が応募してくる
- スタッフ教育が体系化され、属人的マネジメントから脱却できる
- 理念共有により離職率が低下し、組織定着力が高まる
- 社員が「地域と共に働く意義」を再認識し、モチベーションが向上する
2. 資金調達・助成
- 「脱炭素・地域共生」系の補助金採択で有利になる
- 環境にやさしい取り組みを進めるホテルとして、金融機関から良い条件で融資を受けやすくなる
- 自治体や地域金融機関との信頼関係が深まる
3. 売上・集客
- 海外OTAや海外旅行会社での露出が強化される
- 社会貢献や環境学習を重視する教育旅行や企業研修の受け入れにつながりやすい
- 「認証ホテル」としての話題性・報道露出がブランド価値を高める
4. 経営改善・その他
- SDGsや社会貢献の取り組みとして、パンフレットやウェブサイトで発信できる
- スタッフ意識が変わり、無駄削減・効率化にも波及する
世界(海外)のホテルでのメリット
海外では、すでに「GSTC認証=信頼の証」として実務的に効果を上げています。
1. 人材・採用
- 国際的に評価されるホテルブランドとして、優秀な人材確保が容易
- 環境や地域社会に配慮した取り組みを担当する専門スタッフの採用で有利になる
- 社員の定着率が上がり、教育コスト削減にもつながる
2. 資金調達・パートナーシップ
- 社会的責任や環境配慮を重視する投資家から評価され、資金調達がしやすくなる
- 環境に配慮した経営として認められ、銀行から有利な条件で融資を受けやすくなる
- 政府・国際機関の補助金プロジェクトへの参画が容易になる
3. 売上・集客
- OTA(Booking.comなど)で検索優遇を受け、認証ラベル表示による転換率上昇
- サステナビリティ重視のミレニアル・Z世代客の予約増
- 企業の出張・研修などで、社会や環境への配慮を求める取引基準を満たすホテルとして選ばれやすくなる
4. 組織的な学び・改善
- 海外の有名ホテルグループとの間で、成功事例や運営ノウハウを共有しやすくなる
- 国際的な基準に沿った点検・評価を受けることで、運営の質や安全性、信頼性が高まる
7. まとめ:未来の「選ばれる理由」を今つくる
2日間の濃密な研修、そしてプロフェッショナル認証の取得を経て、確信したことがあります。それは、サステナビリティとは一時的なトレンドではなく、宿泊業における新しい「OS(基盤)」になるということです。
10年後、環境や地域に配慮しない宿は、ゲストからも、求職者からも、そして地域からも選ばれなくなっているでしょう。
認証を取ることは手段に過ぎません。大切なのは、「自分たちの宿が、100年後の地域にどう貢献しているか」を問い直すことです。まずは自社ができる小さな一歩から。その積み重ねが、将来的に強力な「選ばれる理由」へと変わっていくはずです。
私自身、この学びを活かし、クライアントの皆様が「持続可能な勝ち残り」を実現できるよう、より深いコンサルティングを提供してまいります。

GSTC サステナブルツーリズム講座修了証

GSTC サステナブルツーリズム プロフェッショナル認証