コラム

ホテル清掃の“新しい常識”が始まっている ~ホテル明治屋が示す、持続可能な運営モデルとは~


はじめに

近年、宿泊業界では「滞在清掃縮小」というキーワードが急速に定着しつつある。
背景には人手不足やコスト上昇といった現実的な課題があるが、それだけで説明できるほど単純ではない。
今回、ホテル明治屋の取り組みと、64施設から回答を得た業界アンケートを統合し、「滞在清掃のあり方」を多面的に検証した。その中で明らかになったのは、宿泊者側の価値観もすでに大きく変化しているという事実だ。

そして、ホテル明治屋の取り組みは、この変化に真っ先に応えた“未来の運営モデル”と言えるものだった。


なぜ今、“滞在清掃の見直し”が注目されているのか

宿泊業界ではいま、「滞在清掃を縮小するホテル」が年々増えている。
理由は単純ではない。コスト削減のためでも、人手が足りないからだけでもない。

背景には
客室清掃という業務が、すでに従来の枠組みでは維持できないほど複雑化している現実
がある。

日本の宿泊需要は、ここ数年で大きく変化した。

  • インバウンドの急増
  • 1泊ではなく 連泊を選ぶ国内ビジネス客の増加
  • コロナ禍を経た清潔志向の強まり
  • 清掃スタッフの確保難、採用費の高騰
  • SNS・クチコミなど外部評価の重要度上昇

これらが複雑に絡みあい、
「全員分の毎日清掃」=ほぼ不可能
という構造が生まれている。

実際、多くのホテルでは以下のような“運営の壁”に直面している。

  • チェックアウト時間からチェックイン時間までの超短時間に清掃業務が集中
  • 稼働率が上がるほど物理的にまわらなくなる
  • 清掃遅延で販売予定の客室が販売停止に
  • レイトアウト・アーリーチェックインの依頼が受けられない
  • スタッフの離職率が上がる
  • 清掃会社の委託費だけが上がり続ける

宿泊業界ではこれを
ピークカット問題(清掃業務集中問題)
と呼ぶ。

こうした状況を背景に、多くのホテルが「滞在清掃縮小」という選択を取り始めている。

表向きには“環境配慮=SDGs”が語られることが多いが、現場が本当に求めていたのは
「人手と時間のゆとり」
である。
実際、「清掃回数を今後どうするか?」という設問でも興味深い傾向が出ている。

注目すべきは、
毎日清掃を続けている側”ほど「減らす方向性」を考え始めている
という点である。

これはつまり、「毎日清掃」が理想ではあっても、
現場の限界が見えているというサイン
だと言える。

その中で、静岡県浜松市にある ホテル明治屋 は非常に参考になる取り組みを行っている


現場が直面する“ピークカット問題”

── ホテル明治屋が踏み出した「次の清掃運用」への決断

静岡県浜松市にあるホテル明治屋は、地域密着型のホテルとして長らく支持を集めてきた。
その取締役支配人である内山美樹様は、今回のインタビューの中で、清掃をめぐる現場の実情と、これからの運用のあり方について率直に語ってくれた。

ホテル明治屋 取締役支配人 内山美樹様

近年、ホテルを取り巻く環境は大きく変わっている。
特に「清掃」は、宿泊業における付帯業務の一つではなく、顧客満足を支える中核業務として重要度が増している。
一方でその重要度が増すほど、現場の負担や人員確保の難しさはより深刻さを増している。

ホテル明治屋も例外ではなく、限られた清掃リソースの中で「最も高い品質」を維持するため、運用改善の必要性を強く認識しているという。

■ 浜松という土地が抱える“清掃負荷”の現実

浜松市は日本有数の製造業の集積地であり、長期・中期の出張需要が多い。
そのため、ビジネス客の利用割合が高く、連泊利用が多くなる傾向がある。

さらにホテル明治屋では、週末や夏休みなどにはファミリー層の需要も増える。
ビジネス・観光が混在する地域特性から、客層は安定しており、それ自体はホテルにとって大きな強みだ。
しかし同時に、清掃負担は平日の連泊客と週末のファミリー層で内容が大きく異なるため、清掃オペレーションは複雑化しやすい。

加えて、ホテル明治屋のような歴史ある地域ホテルにおいては、
「毎日、丁寧な清掃でお迎えする」
という文化を大切にしてきた経緯がある。

しかし、稼働率が高まると現場が抱える負担は避けられず、清掃スタッフの労力は年々増えていた。

■ 2026年1月── ホテル明治屋が踏み出す「滞在清掃の新運用」

こうした課題を整理したうえで、
ホテル明治屋は2026年1月から
滞在清掃縮小型の新しい運用 (3日ごとに1度フル清掃)を本格導入することを決めた。

今回の独自アンケートでもすでに「毎日清掃」が“当たり前”ではなくなりつつある。

一定間隔の清掃に関してはホテル明治屋と同様に3日おきの清掃が最も多い。

なお“減らした日は減らす” “やる日はしっかりやる”
という二軸もすでに業界のスタンダードになりつつある。

支配人は次のように語る。

「お客様に不安を感じさせないことが最優先です。
丁寧に説明し、きちんと納得していただいたうえで利用していただきたい。」

ホテルとして一方的に「清掃を縮小します」と伝えるのではなく、
利用者の理解を得ながら丁寧に運用する姿勢がある。

■ 滞在清掃の見直しがもたらす“効率化効果”

滞在清掃を短縮し、
1部屋あたり20分の時間削減 が達成できれば、
100室規模なら
1日で約33時間分の作業時間が削減 できる計算になる。

これは、委託費ベースで試算すると
毎月数十万円規模のコスト改善 につながる可能性がある。

さらに、臨時的なレイトアウトやアーリーチェックインも受けやすくなるため、
顧客体験の向上にも寄与する。

滞在清掃を“やらない”ことで価値が低下するわけではない。
むしろ、
限られた労働力をより価値の高い業務へ再配分する
ことにより、
ホテルとしての品質と持続可能性を両立していく取り組みだ。

■ 現場の負荷軽減と品質維持を両立するホテルへ

滞在清掃縮小は、
「コスト削減のための苦しい選択」という印象を持たれがちだが、
ホテル明治屋の取り組みを見ると、その本質はまったく違う。

  • 清掃スタッフの負荷を減らし
  • 限られた時間をより価値の高い業務へ振り向け
  • 設備の寿命を延ばし
  • お客様にとっても快適な環境を維持する

この運用は単なる効率化ではなく、ホテルとしての「長期的な品質維持」を見据えた取り組みでもある。

ホテル明治屋のように、
現場の声を丁寧に拾い、
お客様にも丁寧に説明し、
無理のない運用を探りながら変化を進める姿勢こそ、
これからの宿泊業に求められるアプローチだと言える。


清掃現場のリアル──品質管理は“段取り”で決まる

滞在清掃縮小で生まれる“時間”は何に使われるのか?

今回の改革は、単に“負担を軽減するため”だけではない。
むしろ、限られたリソースを より価値の高い仕事へ再投下する試み である。
その代表例が、通常では十分に時間をかけにくい箇所を丁寧にケアする 特別清掃 だ。

支配人はこう説明する。

「滞在清掃の一部を見直すことで、
普段なかなか手をかけづらい場所を丁寧に清掃する時間が確保できます。
これは清掃スタッフからも非常に好評なんです。」

特別清掃とは、例えば次のような“時間を要するメンテナンス”を指す。

  • シャワーカーテンの定期的な交換・洗濯を計画的に行う
  • 水回りの細部メンテナンスを丁寧に行う
  • 室内の細やかな埃取りを徹底する
  • 備品・設備を長持ちさせるために最適なケアを行う …など

■ 明治屋のシャワーカーテン管理は「一次予防 × 二次対応」の二段構え

ホテル明治屋では、
シャワーカーテンは“カビが発生する前に交換する”」 という運用が明確に定められている。
これは、黒ずみやカビが発生してから手を入れるのでは遅く、
清掃スタッフに大きな負担がかかる――という現場の経験に基づく考え方である。

そのうえで支配人は、次のように補足する。

「もちろん、人が行う作業ですから100%見逃しゼロとは言えません。
万が一、黒ずみや気になる汚れを発見した場合は、
その場で丁寧に落とし、必要であれば予備品に交換します。」

つまり、
① 黒ずみが出る“前”に計画的に交換する(一次予防)
② 万一見つかった場合はその場でケアする(二次対応)

という 二段構えの品質管理 が徹底されている。

こうした運用の積み重ねにより、視察に訪れた同業者からは
「細部まで丁寧に管理されていますね」
と評価されることが多いという。
これは設備の新しさでは得られない、日々の運用そのものの成果 だ。

■ 「地球を守る」意識をスタッフ・お客様と共有する

さらに明治屋では、単に交換頻度を増やすのではなく、
“必要なタイミングを見極め、過剰な廃棄を生まない” という環境配慮も重要視している。

支配人は次のように社内で共有している。
「私たち一人ひとりの小さな行動が、
地球環境を守る大きな流れにつながります。
スタッフもお客様も“自分にできること”を一緒に考えられるホテルでありたい。」

特別清掃で丁寧にケアを行い、
交換は“カビの出る前”という明確なラインを保ちながら、
使えるものは丁寧に使う――。
この姿勢が、品質と環境配慮の両立につながっている。


アンケートで見えた「宿泊者の意識変化」

今回の独自アンケートでは、
滞在清掃縮小について、宿泊者からは想定以上に好意的な傾向が見られた。

■ 主に肯定的だった層

  • 国内ビジネス客
  • 連泊を多く経験している層
  • “毎日清掃不要派”
  • SDGs・環境配慮の関心が高い層

理由は以下のとおり。

  • 荷物や書類に触られたくない
  • 連泊なら毎日掃除しなくても不便さを感じない
  • 海外では“毎日清掃しない”のが一般的であると知っている
  • 清掃縮小=環境配慮だと理解している

特にビジネス客からは
「人が部屋に入らないほうが安心」
という意見も多く、
滞在清掃を毎日行わないことが
“不満につながりにくくなっている”
という明確な潮流が確認できた。

ホテル明治屋の主要客層はビジネス利用者とファミリー層であり、
いわゆる“女性の一人旅比率が極端に高い”“欧米宿泊者比率が高い”

といったタイプではないが、
世の中全体として” 滞在清掃縮小に理解が広がりつつある のは確かだ。

こうした宿泊者意識の変化は、ホテル明治屋が今回進めている改革と高い親和性を持っている。


ホテル業界が抱える“構造的な課題”

滞在清掃縮小はトレンドではなく、
業界構造の変化によって必然的に生まれた解決策
とも言える。

● 人員不足

清掃スタッフの採用が年々難しく、
時給を上げても応募が来ない地域も多い。

● 清掃集中問題

10〜15時の時間帯に業務が集中し、
稼働率が高いほど負荷が増す。

● 委託費高騰

委託会社の人件費上昇により、
ホテル側の負担も大きく跳ね上がる。

● 運営の持続可能性

“毎日全室フル清掃”を前提とした運営モデルは、
既に持続が難しくなりつつある。

こうした背景から、
ホテル明治屋の取り組みは、
業界の課題と非常に合致している。


清掃運用を見直すホテルが今すべきこと

滞在清掃縮小を導入するホテルが増える中、
最も重要なのは
“誤解を与えない伝え方” と “無理のない運用設計”
である。

ホテル明治屋のように、

  • チェックイン時の口頭説明
  • 客室内のわかりやすい案内表示
  • 朝食会場での補足アナウンス
  • 館内の案内物にも統一メッセージを掲載

といった多層的な説明があることで、
宿泊者の不安は大きく軽減される。

なお、滞在清掃の案内方法のアンケート結果は下記の通り

また、単に清掃を減らすのではなく、

  • 浮いた時間を特別清掃に再分配する
  • 設備維持に投資する
  • スタッフの負荷軽減
  • 清潔感の底上げ

という形で、
浮いた時間を“価値向上のために再投資する”という発想が重要である。
が重要である。


“持続可能なホテル運営”へ──ホテル明治屋が示した未来像

滞在清掃縮小というと、
「コスト削減」
「サービスダウン」
といったイメージがつきまといがちだ。

しかし、ホテル明治屋の取り組みを見ると、
その本質はまったく異なる。

  • 現場スタッフを守る
  • 清掃品質を高める
  • 設備寿命を延ばす
  • お客様に安定した快適さを提供する
  • 未来の運営を持続可能にする

つまりこれは、
前向きな戦略”としての改革
である。

ホテル明治屋のように、

  • 現場の声を丁寧に拾い
  • 利用者にも誠実に説明し
  • 無理なく続けられる運用を設計し
  • 毎日のケアの積み重ねで品質を作る

という姿勢こそ、
これからのホテル運営が目指すべき姿だと言える。

ホテル明治屋が重視しているのは、
単なる環境配慮ではなく、
スタッフもお客様も、小さな行動で地球を守れる”
という前向きな意識づくりである。

「自分ひとりでは大したことはできない」と思われがちな環境問題も、
日々の小さな選択が集まれば、確かな変化になる。

滞在清掃の見直しは、
その一歩となる “誰にでもできる行動” のひとつだ。

明治屋が取り組むこの改革は、
ホテル運営の持続可能性と、地球の未来を守る意識
の両方を育む取り組みでもある。


まとめ

滞在清掃の縮小は、
「やらないこと」ではなく、
価値の高い仕事に時間を使うための選択”
である。

ホテル明治屋の取り組みは、
これからの宿泊業が抱える課題に対し、
誠実で、現実的で、かつ前向きな解決策を示している。

今、業界全体がこの方向へ動き始めている。
その中でホテル明治屋が行う丁寧な改革は、
多くのホテルが参考にできる“新しいスタンダード”と言ってよいだろう。

取材協力
ホテル明治屋 取締役支配人 内山美樹様
https://hotelmeijiya.com/

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