
はじめに
宿泊施設の客室におけるエンターテインメントは、この数年で大きく変化しています。
かつては一定の収益源でもあったVOD(ビデオ・オン・デマンド)ですが、スマートフォンやサブスク動画サービスの普及により、その立ち位置は揺らいでいます。
では現在、ホテル・旅館にとってVODは「必要な設備」なのでしょうか。
結論|VODは「必須ではないが、条件次第で有効」
VODはすべてのホテル・旅館に必要な設備ではありません。
ただし、
- 固定費がかからない
- 客室テレビのDXを進めている
- 幅広い客層(特にビジネス・シニア)がいる
この条件が揃う場合、
「やらない理由がない設備」になる可能性があります。
今回は、実際にVODを導入している
レンブラントホテル東京町田 の宿泊課支配人・上遠野千人様にお話を伺い、
現場のリアルからその答えを探ります。
実は今回の取材で最も意外だったのは、VOD導入の理由でした。
同ホテルは「VODをやりたかった」わけではありませんでした。

導入の本当の理由|VODではなく「ペーパーレス化」だった
まず印象的だったのは、VOD導入のきっかけです。
多くの方が「収益目的」や「サービス強化」を想像されるかもしれませんが、同ホテルは異なります。
「もともとは客室内の紙媒体を減らしたかったんです。約款や案内をペーパーレス化して、スマートな客室にしたいというのが出発点でした」
紙の差し替え作業は、想像以上に手間がかかります。
100室規模ともなれば、更新のたびに人的コストが発生し、夜勤明けのスタッフが残業して対応するケースもあるとのこと。
「デジタルで一括管理できるなら、その方が合理的ですよね」
この“テレビを情報端末として活用する”発想が、今回のシステム導入の本質でした。
そしてその流れの中で、VODも同時に導入されたというのが実情です。

利用実態|「決め手にはならないが、あると嬉しい」
VODの料金は1日1,000円。
コンテンツは、洋画・邦画・バラエティ・アダルトなど、一般的なラインナップです。
利用者について伺うと、
「やはりビジネス利用のお客様が多い印象ですね」
とのこと。
同ホテルはシングル比率が高く、立地的にもビジネス需要が中心。そのため、一定のニーズは存在しています。
ただし、印象的だったのは“口コミにほぼ現れない”という点です。
「正直、反響はあまり見えていません。ただ、“あってよかった”とは思われていると感じています」
つまり、
宿選びの決定要因ではないが、滞在中の満足度には寄与している
という立ち位置です。

売上は期待できるのか?|結論:過度な期待はNG
収益面についても率直に伺いました。
「正直、売上には一昔前ほど期待しない方がいいと思います」
背景には、やはりスマートフォンやサブスクの存在があります。
「NetflixやYouTubeを普段から使っている方は、わざわざ1,000円払ってまで見ないという選択もあると思います」
これは多くの施設が感じているであろう“構造的な変化”です。
一方で、同ホテルの契約形態は売上に応じて費用を支払う仕組み(売れなければ費用はかからない)。
固定費が発生しないため、
「デメリットは特にありません。だから続けています」
という判断に至っています。
テレビの役割は「エンタメ」から「情報インフラ」へ
今回のインタビューで最も重要なポイントがここです。
現在のテレビは、単なる映像視聴機器ではありません。
「お預かり物の案内や館内告知、注意喚起など、すべてテレビで表示しています」
紙で行っていた案内はすべてテレビへ移行。
さらに、改装後の客室では
- YouTube
- Netflix
- スマホのミラーリング
などにも対応しています。
「テレビが“エンターテインメントの箱”になってきているんです」
つまり、
VOD単体ではなく、“テレビ全体の価値”が変化している
ということです。

決済方法の変化|売れ方も変わっている
VODの販売方法にも変化が見られます。
同ホテルでは、従来の券売機ではなくQR決済を採用。
「券売機は今の時代に合っていないと感じました」
実際、券売機の利用は月10件未満。
一方でQR決済の方が主流となっています。
設備よりも“UX(体験)”が重要な時代
であることがよくわかる事例です。
VODは必要か?|現場から見えた判断基準は「デメリットがない」
インタビューを通じて見えてきた結論はシンプルです。
「最大の理由は、デメリットがないから続けている」
そしてもう一つ、
「年配の方など、一定の層にとっては価値がある」
では、導入すべきか?
上遠野支配人の言葉を整理すると、
■導入を検討すべきケース
・ペーパーレス化やテレビDXを進めたい
・固定費なしで導入できる
・幅広い客層(特にシニア層)がいる
■慎重に検討すべきケース
・売上を目的にしている
・若年層中心の施設
わたしの考察
今回の取材を通じて感じたのは、
「VODをやるべきか」ではなく
「客室テレビの戦略」が本質である
という点です。
- 案内表示
- 注意喚起
- 販促
- エンタメ
これらを一体化した“客室内DXのハブ”としてテレビを捉えると、
VODはその一部の機能に過ぎません。
まとめ|VODは「主役ではないが、無視もできない」
今回のインタビューから導き出せる結論は以下です。
- VOD単体での価値は相対的に低下している
- ただし、一定のニーズは存在する
- 固定費がなければ導入ハードルは低い
- テレビ全体の活用が今後の鍵
そして何より重要なのは、
「導入するかどうか」ではなく
「自施設にとってどう位置づけるか」
です。
今後、客室テレビの役割はさらに進化していくでしょう。
その中でVODは、“主役ではないが意味のある存在”として、
引き続き一定の価値を持ち続けるのではないでしょうか。
自施設にあてはめて考えてみてください。
本記事は一施設の事例ではありますが、“売上”ではなく“顧客体験”や“運用効率”の視点でVODを捉えることが、今後の判断において重要になると感じました。

取材協力
レンブラントホテル東京町田 宿泊課支配人 上遠野千人様
https://rembrandt-group.com/machida
協力:株式会社メディアウェイブソリューションズ
http://mediawave-vod.co.jp/