
はじめに
山梨県・富士急ハイランド隣接のリゾートホテル、ハイランドリゾートホテル&スパ。
同ホテルでは現在、TOUCH TO GO(タッチ・トゥー・ゴー、以下:TTG) の無人決済システムを活用した24時間営業の無人売店を運営しています。
近年、宿泊業界では「人手不足」「DX」「省人化」という言葉が急速に広がっています。
しかし一方で、
- 本当に人手は減るのか
- 売上は伸びるのか
- 宿泊者満足度は上がるのか
- 現場運営はラクになるのか
こうした導入後のリアルは、実際に運営している施設でなければ見えてきません。
今回は、実際に現地を訪問し、売店を利用しながら、同ホテル 支配人 渡邊 浩章様へインタビューを実施。
そこから見えてきたのは、
「無人化=自動的に売上アップ」ではない
という、極めて現実的な運営論でした。

富士急ハイランドオフィシャルホテル

左:支配人 渡邊 浩章様
無人売店導入の背景
「きっかけは人手不足だけではなかった」
今回の取材で特に印象的だったのは、
無人売店導入の背景が、単純な「DX化したかったから」ではなかった点です。
もともと売店はテナント運営。
しかし、その運営先が撤退。
ホテル側で売店を内製化する必要が出てきました。
つまり、
- 売店スタッフの確保
- シフト作成
- レジ運営
- 金銭管理
- 夜間対応
これまで不要だった売店運営コストが、ホテル側に一気に発生したのです。
そのタイミングが、ちょうどコロナ後の人手不足深刻化と重なりました。
渡邊支配人は、導入理由について次のように語ります。
「人手不足、宿泊者利便性向上、DX化。この3つが大きかったです」
特に大きかったのが、夜間・早朝営業。
有人売店時代は「7時〜21時営業」。
つまり、その時間帯は必ず人を配置する必要がありました。
しかも単純な1名体制では回りません。
- 早番
- 遅番
- 休憩
- シフト交代
を考えると、実質2〜3名体制が必要になります。
これは宿泊業界の現場を知る人間なら、かなり重い固定費だと分かります。

決済無人店舗の入口
「高額投資でも導入した理由」
TTGのような無人決済システムは、決して安価ではありません。
実際、現地を見ると、
- 商品棚センサー
- 天井カメラ
- 決済設備
- ゲート連携
など、かなり大規模な設備投資であることが分かります。

すべての商品はセンサーに乗せて管理。桔梗信玄餅(下段)は団体様の大量購入にて欠品中

天井には無数のカメラ

バーコードのスキャンをせず、レジの前に立つだけで決済ができるレジ。モニタ上部にカメラがあり、年齢確認の際に活用している。

店舗は入口ゲートと出口ゲートがあり一方通行システムを採用している
しかし同ホテルは導入を決断しました。
理由は明確です。
「将来の運営コストを下げるため」
「余裕ができたら投資する」では、いつまで経っても投資できない。
宿泊業界では特に、
- 客室改装
- DX投資
- 撮影投資
- Web販売改善
など、先行投資をした施設が強くなる傾向があります。
ハイランドリゾート ホテル&スパ様は、
「人件費を払い続ける未来」と
「先に投資して省人化する未来」
を比較した上で意思決定している点が重要です。
渡邊支配人も、
「3年程度で投資回収を見込んでいる」
と語っていました。
TOUCH TO GO(タッチ・トゥー・ゴー)を選んだ理由
「既存商品をそのまま使える」
無人決済というと、
- Amazon Go
- ユニクロ型ICタグ
をイメージする人も多いと思います。
しかし、TTGの特徴はそこではありません。
既存商品を、そのまま扱える。
これが非常に大きい。
つまり、
- 商品ごとにICタグを付けない
- 特殊パッケージ不要
- 今ある売店を転換できる
という点が、ホテル運営との相性が良かったのです。
渡邊支配人も、
「新規立ち上げではなく、既存売店を無人化する際に負荷が少なかった」
と語っていました。

レジの前に立つとまるで手品を見せられているように総額表示がされる驚きがある。一方、無人決済店舗ならではの禁止事項に関しては店舗内で告知をしている
実際どうだった?
「無人化すれば売れるわけではない」
今回の取材で、最も価値があった部分。
それがここです。
多くのDX記事は、
- 無人化しました
- 効率化しました
- 売上伸びました
で終わります。
しかし現実は、もっと泥臭い。
導入当初、実は売上は減ったそうです。
これ、かなり重要です。
売上減少の原因は「商品点数が減った」から
有人売店時代は約600アイテム。
しかし無人化直後は、約400アイテムまで減少。(※2024年2月時点。現在、TTGはセンサー改良により、置ける商品の種類やバリエーションが減ってしまうのを最小限に抑えられるようになっています)
理由はシンプルで、
センサー管理可能な売場に収める必要があったから。
つまり、無限に商品を置けるわけではない。
この制約がある。
さらに、
- 小さい商品
- 軽い商品
- 薄い商品
は、センサー認識が難しかった。
実際、
- ハガキ (1枚売り)
- 小型キーホルダー
などは当初かなり苦労したとのこと。
つまり「無人化=何でも売れる」ではない。
売場設計そのものを再構築する必要がある。

ハガキ1枚ではセンサーが上手く反応しないことがあったため商品を5枚セットに変更することで問題を解消した

傘のみ手動でのバーコードスキャンが必要な運用ですが、技術的には傘も自動認識可能なため、これらもアップデートされる可能性を秘めています
さらに難しいのがマーケティング
ここが今回、一番重要なポイントかもしれません。
渡邊支配人は、かなり本質的な話をされていました。
「無人化しただけでは売れない」
「売場づくりを考えなければいけない」
これは宿泊業界にも非常に通じます。
つまり「営業時間延長 = 売上アップ」ではない。
重要なのは「買いたくなる仕組み」をどう作るか。
有人売店なら、
- 声かけ
- 接客
- おすすめ提案
があります。
しかし無人化すると、それが消える。
つまり、売場そのものが営業マンになる必要がある。
実際に行われた改善
同ホテルでは、導入後もかなり細かく改善を続けています。
例えば、
- 多言語対応のAI音声案内機器を2台追加 (TTG-HELLO)
- 商品数拡大 (600→400→500アイテム)
- 冷蔵庫追加
- 多言語対応
- レイアウト変更
など。
特に興味深かったのが、TTGとの定例会。
「手に取られているが、購入されていない商品」まで分析し、
- 配置変更
- 関連商品横展開
- 導線改善
を行っているそうです。
つまり「無人だからラク」ではなく、「無人だからこそ、売場設計が重要」になっている。

「デジタルサイネージ」と「AI音声案内 (TTG-HELLO)」があらたな店舗の営業マンへ
24時間営業で何が変わったのか
では、実際に24時間営業化してどう変わったのか。
ここはかなり面白い結果が出ています。
「深夜・早朝売上が新たに発生」
有人時代には存在しなかった売上。
それが、
- 夜食需要
- 早朝出発需要
- 深夜飲酒需要
でした。
結果として営業していなかった夜間帯(21時~7時)だけで、
毎月まとまった規模の安定した売上を上乗せすることに成功した。
特に驚いたのが「高額商品が早朝に売れる」という話。
実際、7,700円程の名刺入れが早朝帯に売れることがあるそうです。
渡邊支配人は「出発前に必要になったのでは」と分析されていました。
これは24時間営業でなければ発生しない売上です。

創業1582年、鹿革に漆の伝統技「甲州印伝」の名刺入。
「ナイトタイムエコノミー」とは少し違う
ここは非常に重要です。
日本では以前から、
「ナイトタイムエコノミーが弱い」
と言われています。
しかし今回の事例は、いわゆる
- 深夜エンタメ
- 夜間コンテンツ拡張
とは少し異なります。
むしろ「滞在中の小さな不便解消」に近い。
例えば、
- 水が欲しい
- ビールが飲みたい
- 夜食を食べたい
- 子ども用品が必要
など。
つまり「夜を楽しませる」ではなく、「夜の滞在満足度を落とさない」ためのインフラ。
ここを勘違いすると、本質を見失います。
特に強かったのが冷凍食品
今回かなり驚いたのが、冷凍食品。
もともと有人売店時代には存在しなかったカテゴリです。
しかし無人化後、ホテルレストランで調理した。
- ピザ
- パスタ
- 中華系
などを展開。
しかも、ただ売るだけではありません。
ホテル側はフリースペースを整備し「その場で食べられる環境」まで作っていました。
これが非常に重要。
つまり商品だけ置いてもダメ、利用シーンまで設計している。

24時間開放をしている電子レンジ完備のフリースペースを実際見てみたが、非常に広々としており、まさにずっといたくなる空間

冷凍食品はメニューラインナップが非常に豊富で選ぶのに迷うほど。すべてホテル内レストランで調理をしている。温浴施設の立ち寄り客には湯上りアイスが人気 。

購入をしない人は「お店を出る」ボタンで退店できる
インバウンド需要との相性
現在、同ホテルではインバウンド比率がかなり高いとのこと。
平日では40%前後。
日本人のオフシーズンにはインバウンド比率が60%近くになる時期もあるそうです。
特に印象的だったのが「日本人の宿泊する日とインバウンドの宿泊する日がかぶらないため、
一年を通してオフシーズンがなくなった」という言葉。
これはインバウンド宿泊需要の強さを象徴しています。
インバウンド客の購買傾向
興味深かったのは、日本人との違い。
例えば、
- 日本人 → 桔梗信玄餅など定番土産
- 欧米系 → ウイスキーなど高単価商品
の傾向が見られるとのこと。
また、日本人がお土産として買う商品を、
海外客は「その場で食べる」という文化差も興味深かったです。
実際、団体インバウンド客が、バス移動中に売店で買ったおかしを食べていたという日本人感覚の「お土産=配るもの」という固定概念が大きく変わるエピソードです。

インバウンドによく売れる。山梨ワイン、日本酒、ウイスキー。特に欧米の人には日本のウイスキーが人気とのこと。
スタッフ負担は本当に減ったのか?
結論から言えば「かなり軽減された」とのこと。
特に大きいのが、
- レジ対応削減
- 金銭誤差ゼロ化
- 常時有人待機不要
です。
ホテル現場経験者なら分かると思いますが、レジ誤差は本当に負担が大きい。
10円差でも締め作業が終わらない。それがほぼ消えた。これはかなり大きい。
ただし「完全無人」ではない
ここも重要です。
無人売店でも、
- 商品補充
- 発注
- 清掃
- 年齢確認
は必要。
特に大変だったのがアルコール販売。夜間はリモート年齢確認対応を実施。
最初は運営フロー整備に苦労したそうです。
現在は、
- フロント
- 予約センター
- 売店側
複数拠点へ通知を飛ばし、先に気づいたスタッフがリモートで1件1件対応する方式に改善。
こちらはかなり現場感がわかるお話でした。
面白かったのは「DXが身近になった」こと
渡邊支配人が語っていた中で、非常に印象的だった言葉があります。
「スタッフが売店に興味を持つようになった」
ホテルDXというと、裏側システム改善になりがちです。
しかしこの無人売店は「目に見えるDX」だった。
その結果、スタッフ自身が、
- 面白がる
- 説明したくなる
- 興味を持つ
ようになったそうです。
これは単なる省人化ではなく「組織文化変化」に近い話だと感じました。
TOUCH TO GO(タッチ・トゥー・ゴー)導入が向いている施設とは?
最後に、導入を検討する施設へのメッセージとして、渡邊支配人はこう語っていました。
無人売店は特に、
- 客室数が多い施設
- インバウンド比率が高い施設
- 周辺にコンビニが少ない立地
- 深夜・早朝需要が発生しやすい施設
- 人手不足課題を抱える施設
- 24時間対応価値が高い施設
と相性が良いと話されていました。
逆に言えば、
「箱だけ用意すれば売れるわけではない」
これは本当にその通りだと思います。
無人化とは「人を減らす」だけではない。
むしろ、
- 商品構成
- 売場導線
- 多言語対応
- 購買導線
- 滞在導線
- 時間帯需要
などを、今まで以上に設計する必要がある。
つまり「省人化」ではなく、「運営設計の高度化」とも言える。
そして何より、同ホテルがこの「運営設計の高度化」に成功し、
確かな費用対効果を実感している何よりの証拠があります。
実はハイランドリゾートホテル&スパ様での成功を確かなモデルケースとして、
今後、富士急グループ内の他ホテルへの横展開も具体的に視野に入れているそうです。
高額な初期投資や運用ノウハウの壁を乗り越え、
「3年程度での投資回収」に現実的な目処が立っているからこその次の一手。
一過性の実験ではなく、持続可能なビジネスモデルとして成立したからこその
横展開の検討は、TTGのシステムが
いかに現場に価値をもたらしているかを雄弁に物語っています。
まとめ 無人化は魔法ではない
今回の取材を通して感じたのは、
無人売店は「置けば勝手に売れる」魔法の箱ではないということです。
しかし一方で、
- 深夜需要獲得
- 24時間営業
- スタッフ負荷軽減
- DX推進
- インバウンド対応
など、多くの可能性を持っているのも事実。
特に今回印象的だったのは、「導入して終わりではなく、導入後も改善を続けている」点でした。無人化はゴールではなくスタート。
だからこそ、運営力がそのまま売上差になる。
そう感じた、非常にリアルな取材でした。

終始丁寧にインタビューにお答えいただいた渡邊支配人

渡邊支配人から『売店に立ち寄った際はぜひ!』とお墨付きをいただいた、『フジヤマクッキー』。あまりに美味しそうだったので、私も取材後に思わず購入してしまいました。
取材協力
ハイランドリゾート ホテル&スパ
支配人・渡邊 浩章様
総務部 係長 外河 大明様
https://www.highlandresort.co.jp
協力:株式会社TOUCH TO GO
https://ttg.co.jp

広々としたホテルエントランス
