
本記事は、宿力が過去に開催したウェビナー内容を記事化した「ウェビナーアーカイブ記事」です。

近年、宿泊業では人件費高騰と採用難が同時に進み、多くの宿泊施設で「人が採れない」「人件費が増えている」という悩みが深刻化しています。
さらに、最低賃金の上昇や社会保険制度の変化など、人件費を取り巻く環境も大きな転換点を迎えています。
これまでと同じ採用方法を続けるだけでは、人材不足を解決することは難しくなりつつあります。
こうした状況の中で、これからの宿泊施設経営では
「どう採用するか」だけではなく、「人件費をどう管理するか」という視点も欠かせません。
採用と労務を切り離して考えるのではなく、人材戦略として一体的に考えることが重要な時代になっています。
そこで宿力では、「人手不足時代の宿泊業経営」をテーマにオンラインウェビナーを開催しました。
本ウェビナーでは、人事・採用支援を担当する篠崎と代表コンサルタントの松本が登壇し
人手不足時代に求められる宿泊施設経営について、多角的な視点から解説しました。
- なぜ宿泊業の人手不足はさらに深刻化していくのか
- 最低賃金の上昇が宿泊施設経営へ与える影響
- 見落とされがちな「社会保険料」という経営課題
- 人材確保のために見直したい採用活動のポイント
本記事では、ウェビナーの中でも特に反響の大きかった
「採用」と「労務」に関する内容を抜粋・再構成し、人手不足時代の人材戦略について詳しくご紹介します。
【課題整理】なぜ今、宿泊業の人手不足と人材戦略を見直す必要があるのか
宿泊業では長年、人手不足が課題と言われ続けています。
しかし現在起きている人手不足は、単に求人への「応募が少ない」という話ではありません。
宿泊需要の拡大や人口減少、円安による外国人材を取り巻く環境の変化など
従来の採用方法だけでは、人材を確保しづらい時代へ移り変わっています。
まずは、現在の宿泊業が置かれている状況を整理してみましょう。
【人材不足の課題①】宿泊需要は回復しているのに、人材不足はさらに深刻化している

コロナ禍を経て宿泊需要は大きく回復し、現在はインバウンド需要も追い風となって
多くの観光地で宿泊客が増加しています。
国も観光立国を掲げ、訪日外国人旅行者数の拡大を目指しており
今後も宿泊需要は高まることが予想されています。
ウェビナーでも「インバウンドの拡大は避けて通れない流れであり
宿泊業界にとって前提条件になっている」とお伝えしました。
一方で、その需要を支える人材は十分に確保できているとは言えません。
宿泊施設ではフロント、調理、接客、清掃など、多くの職種で人材不足が続いています。
宿泊需要が伸びるほど、必要となる人材も増えますが、現実には採用が追いつかず
現場の負担が大きくなっている施設も少なくありません。
つまり現在の宿泊業では、「宿泊需要は増えているのに、人材は不足している」という状況が同時に起きています。
これが、現在の宿泊業経営における大きな課題の一つです。
【人材不足の課題②】円安が外国人採用にも影響を与え始めている
人手不足を補う手段として、多くの宿泊施設が外国人材の採用を進めています。
しかし、「外国人採用も決して安心できる状況ではない」ということを忘れてはいけません。
その背景にあるのが、円安です。
円安が進んだことで、日本で働いて得られる賃金の価値は、以前と比べて相対的に低下しています。
ウェビナーでは「宿力でもベトナムで開発されたシステムを導入した経験があります。
その中で海外人材を取り巻く環境も大きく変化していることを実感している」とお話しました。
日本で働く魅力が以前ほど高くなくなったことで
外国人材にとっては日本以外の国も有力な選択肢となり
日本の宿泊業界における人材確保にも影響が及ぶ可能性があります。
現在は多くの宿泊施設で外国人スタッフが活躍していますが
今後も同じように人材を確保し続けられるとは限りません。
「外国人採用を進めれば解決する」という時代ではなくなりつつあることも
経営者として理解しておきたいポイントです。
【人材不足の課題③】これまでの採用方法だけでは人材確保が難しい時代へ
こうした環境変化を踏まえると、これまでと同じ採用活動では人材を確保することが難しくなっていきます。
「採用だけを考えるのではなく、宿泊施設全体の人材戦略として考える必要がある」ということです。
さらに、採用が難しくなる一方で、人件費は今後も上昇していくことが予想されます。
「採用できない」「採用できても人件費は上がる」といった課題に向き合わなければならないのが
これからの宿泊施設経営です。
だからこそ、採用活動だけではなく、人件費全体をどう考えるかという視点が重要になります。
次章では、その中でも多くの経営者が気にしている「最低賃金」の上昇が
宿泊施設経営へどのような影響を与えるのかを見ていきます。
【人件費対策】最低賃金上昇だけでは見えない宿泊施設の経営リスク
人手不足が続く中、多くの宿泊施設で課題となっているのが人件費の上昇です。
近年は最低賃金が毎年引き上げられており、パート・アルバイトスタッフを多く雇用する宿泊施設ほど
その影響を受けやすくなっています。
実際に宿力へご相談いただく施設でも
「人件費が急激に増えてしまった」
「今後も賃金が上がる中で、利益をどう確保すればよいのか分からない」というご相談は年々増えています。
そこでまずは、最低賃金の現状と、宿泊施設経営へ与える影響について整理していきます。
【人件費対策①】最低賃金上昇が宿泊業の人件費に与える影響

最低賃金はここ数年、全国的に大きく引き上げられています。
今回のウェビナーでも議題に挙がっていたように
府は全国加重平均1,500円を目標として掲げており、今後も最低賃金は段階的に上昇していくことが想定されています。
今後も最低賃金は段階的に上昇していくことが想定されています。
例えば、現在全国で最低賃金が最も低い水準の地域であっても
今後1,500円という水準を目指すことになれば、人件費はこれまで以上のペースで増加していく可能性があります。
宿泊業はフロントスタッフだけでなく、レストランスタッフや調理補助、客室清掃など
多くのパート・アルバイトスタッフによって支えられている業界です。
そのため、最低賃金の引き上げは、一人あたりの賃金だけでなく
施設全体の人件費へ大きな影響を与えることになります。
【人件費対策②】最低賃金が経営へ与える影響とは
最低賃金が上がると、「スタッフへ支払う給与が増える」というイメージを持つ方は多いかもしれません。
もちろんそれも大きな影響の一つですが、宿泊施設経営では、それ以上に考えなければならないことがあります。
例えば、多くのパートスタッフが働く宿泊施設では
一人あたりの賃金上昇額は小さく見えても、施設全体で見ると大きな人件費の増加につながります。
特に宿泊業は人手によってサービス品質が支えられている業界です。
人件費を抑えるために必要以上の人員削減を行えば、接客品質や清掃品質の低下につながる可能性もあります。
だからこそ、「賃金が上がるから人を減らそう」という単純な話ではなく
人件費全体をどう最適化していくかという視点が求められます。
人件費だけでなく、働き方そのものを見直すことも、人材不足への対策として重要です。
宿泊業ならではの勤務形態である「中抜け勤務」の実態や
全国66施設へのアンケート結果をまとめた調査レポートも、ぜひあわせてご覧ください。
あわせて読みたい
【実録調査】宿泊業界の中抜け勤務を徹底調査|人手不足・離職率・働き方改革の現状とは
【人件費対策③】宿泊施設が見るべきは給与ではなく「人件費総額」
最低賃金の上昇は、多くの経営者が意識している課題です。
しかし今回お伝えしたかったのは、それだけではありません。
宿泊施設経営で本当に注意しなければならないのは、「給与として支払う金額」だけではなく
会社が負担する人件費全体です。
給与が上がれば、それに伴って企業が負担するコストも増えていきます。
つまり、人件費は「給与額」だけで考えるものではありません。
今回のウェビナーでも、「最低賃金だけでは見えてこない経営課題」として取り上げたのが
社会保険料でした。
最低賃金ばかりに目が向きがちですが、実際には社会保険料を含めた人件費総額で考えなければ
数年後の経営を見誤る可能性があります。
次章では、宿泊施設の経営者が見落としやすい「社会保険料」について
その仕組みや経営への影響を具体的に解説していきます。
【社会保険料対策】宿泊施設の利益を守るために知っておきたいポイント
最低賃金の上昇については、多くの宿泊施設で意識されている課題です
一方で、今回特にお伝えしたかったのは
最低賃金だけでなく、経営へ大きな影響を与える可能性がある「社会保険料」です。
「社会保険料は経理や労務の話だから」「社労士に任せているから」と
考えてしまう経営者の方も少なくありません。
しかし、社会保険料は経営判断そのものに大きく関わるテーマです。
今後の人件費を考える上でも、まずはその影響を理解しておくことが重要になります。
【社会保険料対策①】社会保険料が経営を圧迫する理由
近年、「年収の壁」がニュースで取り上げられる機会が増えています。
その背景には、社会保険の加入対象を広げようという動きがあります。
これまで加入対象ではなかった方も、一定の条件を満たすことで
社会保険へ加入するケースが増えていくことが想定されています。
ここで重要なのは、社会保険料は従業員だけが負担するものではないという点です。
企業も社会保険料を負担する必要があるため、加入対象者が増えれば
その分だけ会社が負担するコストも増加します。
つまり、人件費は給与だけで考えるものではありません。
給与の上昇に加えて、企業負担となる社会保険料も増えていくことで、経営への影響はさらに大きくなります。
宿泊施設はパート・アルバイトスタッフが多い業態でもあります。
客室清掃、朝食スタッフ、調理補助、布団敷きなど、多くのスタッフが活躍しているからこそ
社会保険料の影響も受けやすい業界と言えるでしょう。
【社会保険料対策②】社会保険料の増加で宿泊施設経営はどう変わるのか
今回のウェビナーでは、実際の宿泊施設を想定したシミュレーションもご紹介しました。
例えば、31室以上100室未満規模の旅館をモデルケースとして考えた場合
最低賃金の上昇に加え、社会保険料の負担が増加すると、人件費は数年単位で大きく変化する可能性があります。



特に注意したいのは、売上が増えていなくても人件費だけが増える可能性があることです。
「宿泊需要が増えているから安心」「稼働率が高いから大丈夫」というわけではありません。
利益率が高くなければ、人件費の増加を吸収できず、利益が圧迫されるケースも十分考えられます。
さらに、従業員の手取りが大きく増えるわけではない一方で、会社の負担は増えていくケースもあります。
だからこそ、数年先を見据えた人件費シミュレーションが重要になります。
【社会保険料対策③】社会保険料が払えなくなるとどうなる?
社会保険料は、経営が厳しくなった際にも優先して支払うべき支出です。
金融機関への返済であれば状況によっては返済計画を相談できるケースもあります。
一方で、社会保険料は性質が異なります。
ウェビナー内でも
「社会保険料は経営が苦しくなったからといって簡単に待ってもらえるものではない」
という点について触れました。
未納が続けば延滞金が発生するだけでなく、状況によっては財産の差押えなどにつながる可能性もあります。
そのため、「払えなくなってから考える」のではなく、「払える経営をどう作るか」という視点が重要です。
【社会保険料対策④】今から経営者が準備しておきたいこと
では、これからの宿泊施設経営では何を準備しておけばよいのでしょうか。
「まずは現状を知ること」が第一歩であるということです。
人件費が今後どのように変化していくのか。社会保険料がどの程度経営へ影響するのか。
それを把握した上で、人件費シミュレーションを行うことが重要です。
また、厚生労働省では「年収の壁・支援強化パッケージ」など
事業者を支援する制度も用意されています。こうした制度を活用できるかどうかによっても
将来的な人件費は変わってきます。
制度は頻繁に見直されるため、最新の情報については
社会保険労務士などの専門家へ相談することをおすすめします。
一方で、「制度上どう対応すべきか」と「経営としてどう判断すべきか」は別の視点です。
社会保険労務士は人事・労務の専門家であり、経営戦略を判断する立場ではありません。
制度を正しく理解した上で、自館にとって最適な人材配置や人件費の考え方を経営視点で検討していくことが
これからの宿泊施設経営ではより重要になるでしょう。
【採用強化】宿泊施設で人が集まる採用活動へ見直すポイント
ここまで、人件費や社会保険料など、宿泊施設経営における「守り」の視点について解説してきました。
しかし、人手不足を乗り越えるためには、人件費を管理するだけでは十分ではありません。
これからは、人材を確保するための「攻め」の取り組みも同時に進めていく必要があります。
ウェビナー内では、その考え方を宿泊施設の「集客」と重ねながらお話ししました。
宿泊施設では、お客様に宿を選んでもらうために、OTAやホームページの改善を日々行っています。
採用活動も本質は同じです。
「求人を出すこと」が目的ではなく、「働きたい」と思ってもらうための仕組みをつくることが重要になります。
【採用強化①】採用活動はOTA運営と同じ考え方
宿泊施設では、OTAへ掲載しただけで予約が入るわけではありません。
施設ページを改善し、写真を見直し、プランタイトルや紹介文を工夫しながら、少しずつ予約率を高めています。
採用活動も同じです。求人票を掲載しただけで応募が集まるわけではありません。
「求職者へどのような魅力を伝えれば良いか」「応募につながるためには何を改善すれば良いか」といった視点で
採用はOTA運営と同じように考えることが重要です。
【採用強化②】採用活動は継続的な改善が欠かせない
宿泊施設では、予約状況を見ながら販売方法を見直したり
プラン内容を改善したりすることは珍しくありません。
採用活動も同じように、一度求人票を掲載して終わりではなく、継続的に改善を重ねていくことが大切です。
今回のセミナーでも、採用活動は一人だけに任せるのではなく
継続的なプロジェクトとして取り組む重要性についてお話ししました。
募集状況を確認しながら、次のようなサイクルを繰り返すことをおすすめします。
- 求人票を改善する
- 応募状況を振り返る
- 必要に応じて内容を見直す
こうしたサイクルを繰り返すことで、採用活動の成果も変わってきます。
【採用強化③】求人票は宿泊施設の「働く魅力」を伝えるページ


宿泊施設では、料理や客室、温泉など、宿ならではの魅力を伝えることで予約につなげています。
採用でも同じように、「仕事内容」だけではなく、「この宿で働く魅力」を伝えることが重要です。
例えば、次のような条件は求人応募の判断をするうえで重要な情報です。
- 職場の雰囲気や働く環境
- 一緒に働くスタッフの人柄
- 身につくスキルやキャリア
- 具体的な仕事内容や一日の流れ
- この宿だからこその魅力
求人票も、宿泊プランを販売するページと同じように、ターゲットを明確にし
「魅力を伝えるページ」として考えることが重要になります。
【採用強化④】「見つけてもらう」ことが採用の第一歩
どれだけ魅力的な求人票を作っても、求職者に見つけてもらえなければ応募にはつながりません。
実際のセミナーでも、「探したときに求人票が出てこないことが一番良くない」というお話がありました。
これは宿泊施設の集客とまったく同じです。
どれだけ魅力的な宿でも、お客様に見つけてもらえなければ予約にはつながりません。
採用でも、まず見つけてもらうこと。
その上で、求人票を通じて「ここで働きたい」と思ってもらうこと。
この順番を意識することが、人材確保への第一歩になります。
今回ご紹介した「見つけてもらう」「魅力を伝えること」は
採用だけでなく宿泊施設の集客にも共通しています。
宿力では、自社予約を増やすための販売設計や情報発信についても詳しく解説していますので
ぜひこちらの記事もご覧ください。
あわせて読みたい
宿泊施設の自社予約強化とは?OTAとの役割の違いと「自社予約を活かす販売設計」の考え方
【まとめ】これからの宿泊施設経営は「採用」と「人件費」を一体で考える時代へ
宿泊業界では、人手不足が長年の課題となっています。
しかし現在は、単に「人が採れない」という問題だけではありません。
宿泊業の人件費と採用は、これからの宿泊施設経営において一体で考えるべき重要なテーマです。
インバウンド需要の拡大や人口減少といった社会環境の変化に加え
最低賃金の上昇や社会保険料など、人件費を取り巻く環境も大きく変化しています。
今回のセミナーでは、こうした状況を踏まえ、
「採用」と「労務」の両方を経営視点で考えることの重要性についてお伝えしました。
採用活動では、求人を掲載するだけではなく、「働きたい」と思ってもらうための情報発信や
継続的な改善が欠かせません。
一方で、人件費についても給与だけを見るのではなく
社会保険料を含めた総額で考え、中長期的な経営計画へ反映していく必要があります。
人手不足への対応は、採用だけでも、人件費対策だけでも解決できません。
これからの宿泊業経営では、「採用」と「労務」を一体の人材戦略として考えることが
持続的な経営につながる第一歩となるでしょう。
宿力では、集客や販売戦略だけでなく、人材不足や人件費といった経営課題についても
宿泊施設の皆さまとともに考え、現場に寄り添ったご支援を行っています。
本記事が、自館の人材戦略や経営を見直すきっかけとなれば幸いです。